「俺ってさぁ、何って云ったらいいのかな。誰が見たってすごく繊細で、人見知りが激しく、気が小さそうで、腺病質でさぁまったく目立たない存在じゃない? ひと言で云えば虚弱体質って奴! なあそう思わないか」
わたしのその言葉に皆は笑いさざめき座は盛り上がった。ひとしきり皆の興味を一身に集めたわたしだったが、その後しばらく間をおいてからの妻の一言はそのすべてをわたしから掠(さら)っていった。
「本当にそうよねぇ~」
ため息とともにつぶやいた妻の言葉に、皆は大いに関心を示すと同時に一瞬の間をおいて爆笑の渦となった。皆がわたしに懐いているわたしの印象と妻のわたしに対する思いのギャップはそれ程大きかったという事だろう。妻はわたしと結婚してもう四半世紀近く経つというのにわたしというものがちっも分かっていない希有な人である。しかしそれと同時に外ではけして見せる事のないわたしの素顔を垣間見て知っているのは実は妻ただ一人なのだ。だからこの時の妻の言葉は掛け値無しの実感なのだった。そう、見た目と違えてわたしは本当はとてもセンシティブでシャイでひとりぼっちが好きで謂わば「繊細孤児」なのだ。それをよく知るただ一人の観察者がわたしの妻なのであった。
しかし残念ながら妻はわたしの身近な観察者ではあるが良き理解者ではない。オバマ新大統領の側近が知日派で固められているのと同様に、知日派ではあるが親日派ではないだろうと想像できるのと同じくらい理解に乏しいのが現実なのだ。本当の理解者は内外両面のわたしを知る人物という事になるのだろうが、至極当たり前の事ではあるが今のところそれはわたし自身だ。
わたしは「太陽」である。といったら皆は笑うだろう。ここでその説明や証明をする積もりは更々ないがとにかくわたしのは「太陽」なのだ・・・と思う。家宗でのご本尊は「大日如来」だし、生年月日から導き出される守護仏も「大日如来」なのだから掛け値なしの「太陽の申し子」といって良いのではないかと勝手に思っている。
・・・でもね。太陽だって雲に隠れる事もあるし、あまり元気すぎると干ばつで災厄をもたらすこともあったりしていつも同じ笑顔を皆に見せる訳にはいかない。
そういえばむかし酒の席で、わたしの上司が「北風と太陽」の寓話を持ち出して人としての在り方を部下に示した事があった。わたしにはそういった話はこじつけがましく感じられ太陽の様な暖かさが人の心を解きほぐすのだというその考えに反論を述べた。曰く・・・
「課長は知らないかも知れませんが実はそれにはまだ続きがあるんですよ。北風は再び太陽に戦いを挑んで今度は太陽に勝ってしまったのです。北風ははじめから旅人の外套を脱がそうなどとは思わなかったのです。それで有史以来誰も経験したことが無い様な強風で旅人を地球の裏側まで吹き飛ばしてしまったのです。その途中で旅人の体はバラバラになってしまって外套も脱げてしまった。そして北風が勝ってしまった。つまり人間という矮小な存在は自然という強大な力にはけして勝てないし翻弄されるだけだという事実です。如何?」
「お前はひねくれ者だ」
上司はそう言って更に話そうとしたわたしを押しとどめて話題を変えてしまった。
一番信頼している部下に反発されたのが気に入らなかったのだろう。そのまま無視されてしまったが狭量な人だとその時始めて(09.02.11訂正:始めて→初めて)思った。・・・わたしが本当に云いたかったのは人間には抗い切れない事だってある。その現実を無視しては生きられないということなのであった。人は時として人生の荒波に遭遇してそれに翻弄されて命を落としてしまうかも知れない。それを遣り過ごし再び再生の道を歩むかも知れない。しかしその結果は誰にも分からないし予測はつかないし、神や仏でもそれは知らないだろうと云うことなのであった。わたしが確実に云えることはそれが誰であろうと人はその時無抵抗でいられる筈がないという事なのであった。最後の最後まで自然も含めた不条理なものに抗い続ける。それが人間というものの本質なのだという事なのであった。・・・今から二十年も前の話である。
寓話などで解決できる程人生は甘くない。
話は変わるが、思えば昨日からわたしのギャグは滑りっぱなしであった。職場で複合コピー機に自分のIPアドレスとPDF保存機能を読み込ませようとして近くのかわいい女子職員に操作の仕方を尋ねた。
「あのさぁ一連の操作を覚えておきたいんだよね。だからコピー機にパソコンを登録するやり方を教えてくれるかなぁ!出来れば手取り足取り」
てな具合に話をしたら、その職員は笑いながらではあるがにべもなくそのお願いを断って来た。
「ゆうさん、それって明らかにセクハラですよ」
「へっ、これがセクシャルハラスメントォ~~~何でやねん」と関西人でもないのに関西弁で言葉を返したら完全に無視されてしまった。
「セットしておきましたから後は自由に使って下さい」
そういって女子職員は下らないオヤジギャグに付き合っている暇はないと言わんばかりにその場から離れていった。わたしのギャグは一旦スベると二、三日はスベリっ放しという傾向がある。う~む、心して掛からねば。そうでないと暗い世相や弱肉強食といった殺伐とした世の中だからこそ積極的に楽しく毎日を過ごそう、その事に最大限の努力しようというわたしの生き方に支障を来してしまう。わたしは「繊細孤児」だけれども虚勢を張ってでも明るく生きていこう。皆の「太陽」になれる様に・・・。
<一話完>・・・続きなし!
正月以来風邪が完治したと云えない状態が続いている。マスクは手放せない。うがい薬も毎朝晩使っている。ちょっと油断するとすぐぶり返してしまう。しかしいつもの定期検診で医師に診て貰ったら徐々に収まっていくでしょうとの事で風邪薬だけを頂いた。総合感冒薬である。二月を迎える前に治したいものである。
不義理というのはわたしは過去に数限りなくしているのだが、最近は何もかもが億劫になって約束を守れなかったりインフルエンザに罹ったからという事はあるにせよ年賀状を出しそびれてそのままになってしまったりと何かとそれが目立つ様になってしまった。そう謂えば年が明けてから皆のブログにも殆どお邪魔していない。最近はそんなわたしにうちの奥様は毎日小言ばかり。うちの奥様の言う通りだとは思うし、信用や評判も落とすのであまりよい事ではないと自覚はしているが致し方なし。別に開き直る訳ではないが義理人情や人とのお付き合いは一定距離を保てればいいなと最近は思い始めている。皆の「太陽」になれる様にと云ったばかりなのにね。