山中伸弥氏の「10万人死亡説」は大丈夫か
このタイトルを見て「煽り運転」ならぬ「煽り記事」ではないかと思った。
人々を煽動して言論を自分の思っている真実とは程遠いあらぬ方向に導いていく。それを快感に思ったり愉悦を覚える人々がこの世には確実にいる。
池田氏がそうだと決めつける積もりはない。だがこのタイトルと投稿の中身の欺瞞性と、この記事に飛びつき賛意を表す多くのリツイートから想起するのは、何とも嫌な日本の現状と未来だ。
今ネットで日がな一日多くの情報を発している、あるいは垂れ流している人達の多くに通底しているのは、自分は世の中に強い影響力を持つインフルエンサーだと勘違いしている点かもしれない。ネットは個人名にしようが仮名(ハンドルネーム)だろうが、対面ではない不特定多数を相手にするがゆえに個人の秘匿性が高い。
だからだろうか、顔が見えないからこそ自分が主張できる『ネット内弁慶タイプ』で溢れかえっている。そうして自分の実体を知られることなく情報を安易に発信できるが故に、遣ること為すこと虚飾と嘘に塗れて「自分は何者か」という事さえ時に見失いがちであるように思える。
だがそうした人達の多くは、実体も実態もインフルエンサーあるいはその予備軍などではなくて、現実にはアジテーターか烏合の衆というところが関の山ではないだろうか。
そうして遣っている事といえば所詮自己満足でしかない。
それを自己完結あるいは「自爆」してくれれば何も問題がないのだが、こういった人達は消え去る際に、自分一人だけでなく出来るだけ多くの人を巻き込んで大騒ぎする傾向にある。
もしかして、一人になるのが恐くて「何をするのも一緒」という心理が働いているかもしれない。果たしてこれは現代人の心の病巣、あるいは宿痾だろうか?
例え話だが、そうした人達の心理は、その行動原理も精神も意識のレベルも、小学生や中学生の頃から少しも進歩していないのではないか。現に今SNSで起きていることは、小中学校時代に見掛けたある光景を想起させるに十分だ。
一人の同級生を、生意気だとか目障りだとか気に入らないといった些細な理由から、ちょっとした言葉尻や失言や誤解を契機に皆で寄って集って揶揄したり、囃し立てたりイジメたりするのとまったく同質な、『スケープゴートを求める心理』から来るものかもしれないと往々にして思うことがある。
それ故にその主張するところは、理知的でも論理的でもなく況してや公明正大なものとは程遠く、倫理にも悖る幼稚な動機から来るものだと断じるしかない。池田信夫氏のこの投稿からはそうした者に共通した臭いがする。
否、皆は池田氏の遣り口を真似ているのかもしれない。何しろ筆者から見たら時に池田氏の論調はアジテーターの首魁というか総元締めの観すらある。それほどまでに『池田信夫モドキ』あるいは『エセアゴラ風論調』はツイッターなどに溢れかえっているようにも思えるのだ。
それが証拠に、この対談の骨子というか肝要な点はまったく別のところにあるのに、その事に一切言及せずに枝葉末節に拘り、言葉を弄し本質を蔑ろにして単なる揚げ足取りに終わっている。ツイッターなど個人攻撃のオンパレードである。
そこには相手の主張を理解しようという姿勢はまったく見受けられない。だからその先にあるのは対立と断絶だけである。つまり発展性などまったくないのだ。これはネットに限定した話ではない。誹謗中傷によって自殺した事件を挙げるまでもなく、これが日本の将来に良い影響を与えるとはとても思えない。
池田信夫氏の投稿のタイトルは、<山中伸弥氏の「10万人死亡説」は大丈夫か>となっている。しかしこれは事実を表してはいない。さも山中発言の本質であるかの様なタイトルだが実はフェイクだ。ハッキリ申し上げて、事実を枉(ま)げて論じるのは頂けないし、悪質でさえある。
それにこの記事に書かれている引用文はあくまでも要約文であって実際に山中教授が話されたことの本質を捉えていないように思える。というより池田氏の手により至るところが端折られ都合良く編集されている。
53分15秒のビデオのうちの、7分30秒辺りから9分50秒辺りの内容を池田氏は引用しているのだが、これが池田氏の手によるものなのか、それともどこぞのニュースから拝借したものなのか定かではない。だが山中教授のこの発言の真意が、まったく伝わっていないことだけは確かだ。
つまり原文のままとは言い難いのだ。しかもこの引用文の後に語られた、2月から緊急事態宣言が解除される6月初旬迄の「自らが出した数値の妥当性は検証はしなければならない」という、科学者としての西浦教授の明確な態度の表明にはまったく触れていない所を見ると、公正な記事とはとても言い難いのではなかろうか。
と言うよりある種のバイアスが掛かった記事と捉えるしかないのではないか。
事実、山中教授は話の流れの中で「何も対策を講じなければ、今の日本には10万人が死んでもおかしくないほどのウイルスが存在している」という主旨で述べているのであって、その意味するところは日本の置かれている現状を端的に表したものでしかなく、10万人死ぬとは言っていないのだ。
ウイルスの潜在的な恐ろしさは、対策をとらなければ日本でも何十万人が亡くなってしまうというのは間違いないことだと思うんです。何も対策をしなければ。実はそれは今も変わっていないんじゃないんかと。<中略>
40万人なのか30万人なのか20万人なのかというのは別ですが、いまだに日本はもし何も対策をとらなければ、今からでも10万人以上の方がなくなる、それぐらいのウイルスがまだそのあたりにいっぱいいてるんだという事実は僕たちは絶対忘れてはいけないことだと僕は思ってるんです<太字は池田氏記入。原文のまま引用>
上記の話の流れから分かるように、理由も分からぬままに事態が沈静化して、それを受けて緊急事態宣言等が徐々に解除あるいは緩和され、経済や社会活動が再開した中での見えない危険性について山中教授は警鐘を鳴らしているのであって、何も対策を講じなければ10万人死ぬ可能性だってあるということに言及したものだ。
10万人という数字を敢えて挙げたのは、比喩的に、なおかつ実際にもあり得ない数字ではないと、今も存在するこのウィルスの危険性を惹起したのであって、10万人という数値そのものは述べたいことの主旨ではなかった。つまり実際にも「10万人死亡説」を唱えた訳ではないのだ。
ところでこの論調を見る限り、池田氏は「日本で10万人死ぬ事はあり得ない」と思っているらしい。揚げ足取りな文面を見る限りどうもそうとしか受け取れない。その根拠となっているのはこの記事に載せた2つのグラフだが、それが今後も通用するグラフだと思っている時点で池田氏の論理は破綻している。
何故なら、今も日本国内に新型コロナウイルスは存在するし、それが変異して強毒化するか何らかの理由によって弱毒化するかも一切分からないからだ。
日本だけでなく世界で死者の増加が沈静化しているのは、このウイルスの特性とか民族の遺伝子特性などではなくて、社会科学的要素あるいは行動心理学的要素の方が強いという事だろう。
世界の高齢者は自分が一旦感染すれば若者の何十倍も死ぬ確率が高い事が分かってしまった。そんな情況で警戒もなしに外出するご老人はいない。だから死亡者が少ないのだ。それに加えて、日本や東アジアで死者が少ないのは、けして民族遺伝子的要素などではなく、元々東洋の社会習慣自体が『非接触社会』だからだ。
だって日本では家族や知り合いにハグもしなければ頬にキスもしないでしょう。
しかしそんな『非接触社会』でも、一旦感染爆発が起こりそれに歯止めが掛からなければ、つまり制御できない状態になればその限りではない。欧米で起こった事は日本で起こらない保証はどこにもないのだ。日本は今まで大丈夫だったからこれからも大丈夫と考えるならばそれは愚か者でしかない。
それに付け加えて、季節性の風邪やインフルエンザと一緒に流行が始まった時に今のままでは対処は出来ないのは明らかだ。何故なら今冬にワクチンは存在しないし特効薬もない。つまり感染爆発が起こる恐れは十分にある。そうなれば死者の数が数千で済むはずがない。
それに今でも日本の医療体制は十分ではない。新型コロナ対応病院は皆疲弊している。保険点数が稼げないから病院は財政的に経営は苦しく、医療従事者にも疲労の色が濃く、これだけ働いても30%の病院はボーナスすら払えない。
そうした事実から言えば、これから多くの医療従事者、特に看護師は退職していくだろう。そんな状態なのに東京都は何の支援も無しに対応ベッド数を現在の1000床から3000床に増やす事を命じた。
よく考えて欲しい。ベッドを3倍にしたからといって、単純に医師の数が3倍に増えるだろうか? 医療スタッフが3倍に増えるだろうか? 医療機器や防護服や防疫用具が3倍に増えるだろうか? 答えは否だ!
こんな当たり前の計算もできない人物を7月5日の都知事選で選択した都民が、その報いを受けない保証は今のところどこにもない。というよりその影響は徐々に出始めているのかも知れない。しかし困った事にそれは都民だけの話で終わらない。神奈川も埼玉も千葉もそのとばっちりを受けるのは必至だ。
実際のところ、これから一年先二年先、あるいは三年先に何が起こるかなど誰一人分からないのではないか。そうした実態を無視して池田信夫氏が「山中教授10万人死亡説」を唱えて危機感を煽る目的は、ひとえに『緊急事態宣言の再発令』を恐れての事らしい。何故なら池田氏は医療の専門家ではなく経済を核とした学術博士の肩書きを持つ身だからだ。
だがこの主張にもフェイクが混じっている。こうした世間の不安を煽る人達に共通しているのは、誰でも分かる事実や分かりやすい説明の中に事実と異なる嘘を何食わぬ顔で混ぜる事だ。それはあのネトウヨIronbridgeさんの文章にも共通している特徴だ。
山中氏はこれから有識者会議で感染症対策を指揮するわけだが、彼が「10万人以上死ぬ」と思っているとすれば、また緊急事態宣言が発令される可能性もある。日本は大丈夫だろうか。
この文章よくよく見るとおかしいと思いませんか?
事実とは異なることが何食わぬ顔で書かれている。山中教授は会議の1メンバーであって意見を言う立場にはあるが、この会議を指揮するのはあくまでも尾見議長だ。山中教授が幾らノーベル生理学・医学賞を貰った人物だからといって、彼の言が優先する訳ではない。
なぜならメンバーには経済の専門家が4名以上加わっているし、それ以外の分野の方も含めて総勢12名もいらっしゃる。しかも経済の脚を引っ張る事をほぼ全員が恐れているのが現実だ。そんな中でしかも指揮する権限もないのに緊急事態宣言を上申する事などあり得るだろうか。
というよりそんなことを専門家会議を総括して「前のめり発言もあった」と認めている責任者(指揮者)である尾見茂有識者会議議長がする訳がない。あり得ない話を前提にするほど愚かしい事はない。
というより山中教授だけでなく有識者会議自体が緊急事態宣言を発令する事はあり得ない。緊急事態宣言を発令するのもその責任を一身に負うのも時の政権であり総理大臣だ。有識者会議のメンバーに責任をおっ被せるような事があってはならない。
という理由により、池田信夫氏のこの記事はフェイクであり煽り記事そのものだ。
反論があるならいつでも受けて立つ。
Written by H☆imagineU3
<つづく>
次回は3日後の2020年7月17日午前零時に更新予定。
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<2020/07/14 10:30 追記>
そう言えば、先日ツイッターに言論プラットフォーム・アゴラに「竹中平蔵擁護論」らしき投稿が掲載されていたので、コメントを返しておいたよ。
欺瞞は正しておかなければならないからね!(o゚∀゚o)
というよりこの投稿どう見ても「やらせ記事」だよね。