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エン・キン・ホー [随筆]

かりんとう屋さん.jpg 

 風景や静物を描く場合に遠近法を頭に入れて描かないと幼児の描くものの様に平板なものになってしまう。平板な絵が、つまり二次元的絵画が拙いと云っている訳ではけしてない。それを生業としている大人が描く絵より幼児の描いたものの方が人々に感銘を与える事もあるからだ。

 わたしは高校生の頃、ある出来事以来この遠近法を引き合いに出されてよくクラスメートからからかわれた。

 しかしわたしの描く絵が拙くてからかわれた訳ではない。美術の成績はクラスはもとより学年でも一番だったし、小学校以来東京都ではわたしの絵画や版画や彫刻が何度も特選や入選を果たしていたからだ。今はその面影もないけれどね。

 それは確か修学旅行で安芸の宮島か何かに行った時の事だったと思うが今になってはよく覚えていない。兎に角、集合写真を撮っている時にそれは起きた。

 わたしはガタイが大きかったので写真を撮られる時はいつも一番後ろの列の端っこかはたまた中央付近に陣取るのであるがその観光客相手の写真屋さんは中央に立つわたしの方を見上げながら
 
 「そこ、そこの真ん中の男前の学生さん」と呼ばわった。
 
 前にいたクマとわたしが呼んでいたクラスメートが「俺、俺?」というような得意気な顔をして自分の鼻先を指差して照れ隠しに左右や後ろの私達を見上げてキョロキョロしている。すると、
 
 「いやキミじゃなくてその後ろの色白の君。そ、そう君ね、もう一つ後ろの段に上がってくれる」

 「?!?!」
 
 ・・・わたしはクマの剽軽さに失笑していたのだが急に真顔になった。何故ならわたしは一番後ろの段に立っていたのであり背後にはお立ち台一つなかったから。

 空かさず前のクマが笑い出した。

 「おめえ顔デケエからな」

 その瞬間担任以下クラスの殆どが後ろを仰ぎ見た。そしてクスクスゲラゲラあちらこちらから笑いの渦がわたしを捉えた。

 わたしは真顔で「すみませ〜ん。これ以上後ろに下がれません」

 これには順番待ちで一部始終を見ていた他のクラスまで笑い声が拡がった。

 更に追い打ちを掛ける様に最前列にいたチビで生意気なウナガミが
 
 「U3には遠近感がねえんだよな」とのたまわった。

 この一言で辺り一帯が弾ける様な大爆笑の渦となった。それは周りの観光客が思わず振り返る程のものだった。

 つまり顔が大きいので実際は後ろにいるのに前にいるクラスメートの誰よりも前面に居る様に見えるというのである。遠近感を狂わせる程俺の顔はデカイのか。俺はこまわり君か、と内心思いながらキッカケを作った軽薄なクマの頭頂を軽く拳骨で小突いた。

 その日以来わたしは「遠近法の通じない男」として有名になった。

 こう書くと誰もが「福助」やマンガの「こまわり君」の様なアンバランスな頭でっかちを思い浮かべると思う。だが、わたしは肩幅も人一倍広く背も高かったので遠目からはスラリとした印象にしか見えず違和感は感じないのだと仲の良いクラスメートのTBは言って呉れた。
 
 しかしそのTBでさえも
 
 「U3はさ、一人だけで遠目に見る分にはカッコ良く見えると思うよ。でもさ近くで見ると顔の作りがひとつひとつパーツがデカくて迫力あるし男前ではあるけれど、、、隣に誰か並ぶとねぇ、ククッ」と笑うのだった。

 若い頃の話だが、会ったばかりの友達の彼女から「さっき座って話している時は気づかなかったけれど立って見るとU3ってスラリと背が高くて恰好いいのね」と言われた事を思い出した。その時は褒め言葉と捉えて悪い気はしなかったが、実はそうではなくてソース顏で迫力のある顔が遠近感を狂わせてしまってその様な言葉となったのだろうかと後になって思ったものだ。
 
 ・・・その様な訳で「遠近法が通じない男」は今も健在である。
 
こんな事もありました。.jpg

 
 もう一つ遠近という言葉で想起されるのは老眼鏡だ。わたしは四十代初めにはもう境目のない遠近両用眼鏡を掛けていた。今でも普段眼鏡は殆ど掛けないが元々近視だから疲れた時などまったく近くも遠くも見えないからいざという時の為に購入したのである。今では眼鏡は五つもある(笑)
 
 わたしの目は可成り乱視が入っていてしかもガチャ目である。その乱視の具合と云ったら満月の夜に月を見ると左目は三つ右目は四つも月が見えるという滅茶苦茶振りである。村上春樹の「1984」だって月は二つだ。それなのにわたしの目には月が三つも四つも見えてしまうのである。もしかしたら春樹の小説の様にわたしは常とは違うパラレルワールドにいるのかも知れない。
 
金星かな.jpg 
 
 そんな視力だから、当然ながら運転中に案内標識など見ても遠くからはよく見えない。ところが自動車免許の更新では運転の付帯条件として「眼鏡使用」になった事は一度もないし道に迷った事もない。まあ道に迷わないのは方向感覚が人一倍良いからで視力とは全く関係がない。初めての土地でもすんなり目的地に着いてしまうのはこの持って生まれた感覚の所為だろう。

 兎にも角にも視力がそんな状態で眼鏡使用にならないのは運としか云い様がない。
  
 話をもとに戻そう。

 わたしが遠近両用眼鏡を普段使いしない理由は二つある。一つは長期間の眼鏡着用により近視の度が進んでしまうのを防ぐ為、もう一つは遠近両用眼鏡は境目の無いものであってもかなりの違和感があって一日使用すると眼精疲労が著しいからだ。目が疲れると夜もなかなか寝付けなくなり疲労が倍加する。だから眼鏡を普段使いしないのだ。五つも持ってるのに^_^ 
 
 でもね日中のサングラスは必帯です。なにしろ虹彩の色が日本人離れした極端に薄い茶色なので光の量が多いと疲れてしまうのですね。だから運転中はいつもグラサン。短髪刈り上げでサングラスですから見た目はまるでターミネーターですね。これで革ジャン着て高速のサービスエリアでそのまま建物の中に入って行こうものなら誰もが避けて通る強面です(笑)


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コメント 10

Silvermac

60歳を過ぎてから乱視が入るようになりました。長距離ドライブの時は遠近両用の眼鏡を掛けています。
by Silvermac (2013-11-19 20:03) 

侘び助

私も、らんし&白内障・・・痛い目に遭っております。
by 侘び助 (2013-11-19 23:26) 

枝動

こんばんは。
タイトルに笑った。与作のように響きました。
メガネは毎日かけていると、やっぱり度は進みますね。
近視も遠視も進んでしまいました(T_T)
by 枝動 (2013-11-20 00:04) 

たいへー

画伯の絵に、心揺らされる毎日でございます。(^^;
by たいへー (2013-11-20 07:19) 

くまら

未だにメガネにはお世話になってませんが
そのうち・・・なるんだろうなぁ
by くまら (2013-11-20 08:29) 

なかちゃん

40才代後半から近視になってきました ^^
そして、身体は並のつくりながら、顔だけは他人より若干でかいです ^^;

by なかちゃん (2013-11-20 08:42) 

青い鳥

私も最近月が2重に見えるようになって参りました。
メガネを変えなくてはいけません。
顔の大きい人は劇などで主役に向いていると聞いています。
by 青い鳥 (2013-11-20 17:03) 

テリー

白内障の手術をして、レンズは、遠くの所に合わせるようになっていること、乱視があるので、遠近両用をかけています。確かに、目が疲れすぎると、寝付きが悪いときがありますね。
by テリー (2013-11-24 18:46) 

mochamama

ご無沙汰しておりました。
8か月ぶりに戻ってまいりました。下書きがいくつもたまっていました^^;
遠近両用眼鏡使用しています。
夜の運転はまた別の眼鏡を使います。
手芸するときはまたまた別の眼鏡と使い分けています。
遠近両用コンタクトを検討中です。
by mochamama (2013-12-05 00:49) 

Michikusa

仕事柄、遠くの子どもの顔も手元の字も両方見なければならないので、中近両用を使っています。
でも、夜の運転は遠近じゃないと無理・・
私も乱視が入っているので、面倒くさい視力です。
by Michikusa (2013-12-15 10:35) 

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